持続可能な社会の実現を目指すSDGs(持続可能な開発目標)の中でも、目標9「産業と技術革新の基盤を作ろう」は、現代社会の課題解決に直結するテーマです。
SDGs目標9「産業と技術革新の基盤を作ろう」とは?
SDGs目標9「産業と技術革新の基盤を作ろう」は、経済成長と持続可能な社会の両立を目指し、次の要素を重視しています。
- 強靭なインフラ構築 インフラを災害や環境変化に強いものとし、地域や国際社会の持続可能な発展を支える。
- 持続可能な工業化の促進 エネルギー効率の高い技術や手法を活用し、公平で持続可能な産業発展を推進する。
- 技術革新と研究開発の推進 科学技術や革新的技術への投資を増やし、新しい製品やプロセスの開発を促進する。
- 中小企業の支援 中小企業や零細企業が金融や市場にアクセスしやすい環境を整備し、成長を後押しする。
- 途上国の産業基盤強化 特に開発途上国でのインフラ構築や技術移転を支援し、格差の是正を目指す。
- 持続可能な輸送網の整備 エネルギー効率の高い輸送システムの整備により、地域間や国際間の連携を強化する。
この目標は、技術革新を通じた経済活動の効率化や産業基盤の改善を促し、貧困削減、環境保護、包摂的な成長の実現を目指しています。
具体的なターゲットは全8項目を掲げています。
全ての人々に安価で公平なアクセスに重点を置いた経済発展と人間の福祉を支援するために地域・越境インフラを含む質の高い、信頼でき、持続可能かつ強靭(レジリエント)なインフラを開発する。
包摂的かつ持続可能な産業化を促進し、2030 年までに各国の状況に応じて雇用及び GDP に占める産業セクターの割合を大幅に増加させる。後発開発途上国については同割合を倍増させる。
特に開発途上国における小規模の製造業その他の企業の、安価な資金貸与などの金融サービスやバ リューチェーン及び市場への統合へのアクセスを拡大する。
2030 年までに、資源利用効率の向上とクリーン技術及び環境に配慮した技術・産業プロセスの導 入拡大を通じたインフラ改良や産業改善により、持続可能性を向上させる。全ての国々は各国の能 力に応じた取り組みを行う。
2030 年までにイノベーションを促進させることや 100 万人当たりの研究開発従事者数を大幅に 増加させ、また官民研究開発の支出を拡大させるなど、開発途上国をはじめとする全ての国々の産 業セクターにおける科学研究を促進し、技術能力を向上させる。
アフリカ諸国、後発開発途上国、内陸開発途上国及び小島嶼開発途上国への金融・テクノロジー・ 技術の支援強化を通じて、開発途上国における持続可能かつ強靭(レジリエント)なインフラ開発 を促進する。
産業の多様化や商品への付加価値創造などに資する政策環境の確保などを通じて、開発途上国の国 内における技術開発、研究及びイノベーションを支援する。
後発開発途上国において情報通信技術へのアクセスを大幅に向上させ、2020 年までに普遍的かつ 安価なインターネットアクセスを提供できるようにする。
世界が注目する技術革新の最前線
技術革新は、持続可能な未来を切り開くカギです。スマートシティやカーボンニュートラル技術など、各国の先端的な取り組みを見ていきましょう。
スマートシティ|未来型都市の実現
スマートシティは、都市全体をデジタル技術で最適化し、効率的で環境に優しい社会を実現する取り組みです。日本での事例を2つほど紹介します。
富山市の「コンパクトシティ」
富山市は「コンパクトシティ」としてのスマートシティモデルを推進しています。人口減少と高齢化に対応するため、公共交通機関を中心に据えた都市設計を行い、CO2排出量を削減。特に、LRT(次世代型路面電車)の導入により、市民の移動がより便利でエコフレンドリーになりました。この取り組みは国連からも高く評価されています。
(出典:富山市 富山市環境モデル都市行動計画)
トヨタの「水素ステーション網」
トヨタは、燃料電池車(FCV)「MIRAI」の普及に伴い、全国に水素ステーションを整備しています。このネットワークは、水素エネルギーの普及を加速させる鍵となっています。また、製造プロセス全体を見直し、二酸化炭素の排出量を最小化する技術開発も進行中です。
(出典:資源エネルギー庁 燃料電池自動車の普及促進に向けた水素ステーション整備事業費補助金について)
カーボンニュートラル技術|ゼロエミッションへの挑戦
地球温暖化を食い止めるため、CO2排出を実質ゼロにする技術が世界中で注目されています。やスウェーデンなどの先進事例から、その可能性を探ります。
シンガポールの「Smart Nation」計画
シンガポールは「Smart Nation」計画のもと、全土でAIとIoTを活用した取り組みを進めています。センサー技術で都市全体のエネルギー使用を監視し、交通渋滞の削減や廃棄物の管理を最適化。さらに、国民一人ひとりが持つ「スマートID」を活用して医療や行政サービスを迅速化しています。
(出典:日立コンサルティング スマートシティー先進国 シンガポールの取り組み)
スウェーデンの「Hybritプロジェクト」
スウェーデンの「Hybritプロジェクト」は、化石燃料を使わない製鉄技術で注目されています。従来の製鉄では、大量のCO2が発生しますが、このプロジェクトでは水素を利用し、ほぼゼロエミッションで鉄鋼を製造します。この技術は、鉄鋼業界全体の脱炭素化を進める大きな一歩として期待されています。
(出典:共同通信PRワイヤー HYBRIT、世界初の水素還元スポンジ鉄の製造に成功)
オーストラリアの再生可能エネルギーを活用した水素製造と日本への輸出計画
オーストラリアでは、太陽光や風力エネルギーを利用した水素製造が進んでいます。これを液化して日本や韓国に輸出することで、再生可能エネルギーを国際的に活用する取り組みが進んでいます。
(出典:JETRO 豊富な資源と地理的好条件を生かし水素輸出国を目指す)
日本の産業基盤を支える取り組み
日本では、中小企業支援やグリーンテクノロジーの推進を通じて、産業基盤を強化しています。これにより、経済と環境の両立を目指す社会づくりが進められています。
中小企業への技術支援
中小企業は、日本の産業基盤の中核を担っています。しかし、資金不足や技術的課題を抱える企業も少なくありません。経済産業省はこれを解決するため、補助金制度「ものづくり補助金」や、スタートアップを支援するための「J-Startup」プログラムを展開しています。これにより、AIやロボティクス技術を活用した製品開発が進んでいます。
教育と人材育成
技術革新を支えるのは、未来を担う人材です。文部科学省は、大学と産業界が連携してイノベーションを生む「スーパーグローバル大学創成支援」プログラムを進めています。たとえば、東京大学はAIと環境問題を結びつけた研究を強化しており、社会に貢献する人材を育てています。
世界の事例から学ぶ:産業基盤と技術革新の融合
ドイツの「インダストリー4.0」やケニアの地熱発電など、世界中で進む革新的なプロジェクトは、技術と産業基盤の新たな可能性を示しています。
ドイツの「インダストリー4.0」
ドイツの「インダストリー4.0」では、AIを活用した生産ラインの効率化が進められています。たとえば、ロボットがリアルタイムでデータを分析し、生産プロセスを自動調整する仕組みが導入されています。これにより、不良品率が大幅に減少し、エネルギー効率も向上しました。また、グリーンエネルギーとの統合で、製造業全体の脱炭素化が加速しています。
ケニアの地熱発電と分散型エネルギーシステム
ケニアやナイジェリアなどの国々では、地域ごとに小規模な再生可能エネルギーシステムが導入されています。特に、ケニアの地熱発電は国全体の電力供給の約50%を占めており、持続可能なエネルギーへの転換を支えています。このシステムは、中央集権型の電力網が難しい地域において、画期的な解決策となっています。
(出典:東芝エネルギーシステムズ株式会社 ケニア電力公社と地熱発電所の運転・保守サービスの協業について合意)
まとめ
SDGs目標9「産業と技術革新の基盤を作ろう」は、地域社会や地球規模での課題解決に大きく寄与する目標です。日本や世界の取り組みから学び、私たち一人ひとりが持続可能な未来のために何ができるのかを考えることが重要です。技術革新を通じた課題解決の可能性は無限大です。