EUが動いた——「使い捨て時代」に終止符を打つ改正法
2025年8月、EU(欧州連合)は「サーキュラーエコノミー法」の改正案を正式に可決しました。
今回の法改正は、製品の寿命を延ばし、廃棄を減らし、資源を循環させる社会の実現を目指しています。
対象となるのは、アパレル、家電、IT機器、家具、日用品など幅広い分野。
「壊れたら捨てる」が常識だった社会から、「直して使う」社会へ——。
EUは、持続可能な経済モデルへの大転換を本格的に始めたのです。
サーキュラーエコノミーとは?(基礎解説)
「サーキュラーエコノミー(Circular Economy)」とは、循環型経済のこと。
従来の「リニアエコノミー(直線型経済)」は、
- 資源を採掘する
- 製品をつくる
- 消費する
- 廃棄する
という“一方通行”の流れでした。
しかし、世界的な資源不足・廃棄物問題・気候変動の加速を受け、
「廃棄物を資源に戻す」「修理して再利用する」という循環型の仕組みが求められています。
EUはすでに2015年にサーキュラーエコノミー行動計画を採択、2020年に第2次行動計画を公表しており、今回の法改正はその延長線上に位置付けられます。
改正案の主なポイント(わかりやすく解説)

1. 修理する権利(Right to Repair)の拡大
これまで「壊れたら買い替える」しか選択肢がない製品も多くありました。
しかし改正法では、メーカーに対し以下を義務付けます。
- 修理用パーツの一定期間の供給
- 修理マニュアルの公開
- 専門知識がなくても修理しやすい設計
消費者は「買い替えるか修理するか」を自分で選べるようになり、製品寿命は大幅に延びると期待されます。
2. デジタル製品パスポートの導入
今後販売される多くの製品には「デジタル製品パスポート」が付与されます。
- 製品の素材情報
- リサイクル可能性
- 製造過程での環境負荷
- 修理・リユースの方法
これらの情報が消費者やリサイクル業者に提供されることで、製品の透明性が飛躍的に高まることになります。
3. グリーンウォッシング対策
近年、「環境に優しい」と宣伝しながら実際には持続可能性が低い製品も多く見られます。
こうした“グリーンウォッシング”を防ぐため、環境表示の基準が強化されます。
消費者は「本当にサステナブルかどうか」を見極めやすくなり、誠実に取り組む企業にとっては競争優位につながります。
産業界への影響と新しいビジネスチャンス
アパレル業界
これまで大量生産・大量廃棄が問題視されてきたファッション業界。
改正法によって、長く使える素材やリサイクル繊維の利用が加速します。
中古販売・レンタル・修理サービスの拡大も予想されます。
家電・IT業界
スマホや家電の「バッテリー交換できない問題」が大きく改善される可能性があります。
修理可能性が義務化されれば、メーカーは製品設計を根本から見直さざるを得ません。
小売・流通業界
「販売して終わり」ではなく、リユースやリペアを組み込んだサービス設計が必要に。
たとえば、家電量販店が修理工房を併設するような新しい店舗モデルも考えられます。
消費者にとってのメリット
- コスト削減:修理することで買い替え頻度が減り、家計に優しい。
- 環境負荷の低減:廃棄物を減らし、CO₂削減にも貢献。
- 選択肢の拡大:新品・中古・修理品の中から自由に選べる。
- 安心感:デジタル製品パスポートで「どれだけエコか」を確認できる。
日本にとっての意味と課題
日本でもアパレル廃棄や家電の短寿命化は社会問題になっています。
しかしEUほど強い規制はまだ存在していません。
今後は、
- 日本企業がEU市場に製品を輸出する際に、規制を遵守する必要がある
- 国内でも「修理する権利」を求める声が高まる可能性がある
- サーキュラーエコノミーに対応できない企業は国際競争で不利になる
といった影響が予想されます。
私たちができるアクション
- 修理できる製品を選ぶ(バッテリー交換可能なスマホ、長く使える家電など)
- フリマアプリやリユースショップを活用する
- 修理・リペアサービスを積極的に利用する
- サステナブルな取り組みをしているブランドを応援する
小さな選択の積み重ねが、循環型社会の実現を後押しします。
まとめ|「直して使う」社会へ
EUのサーキュラーエコノミー法改正は、
「壊れたら捨てる時代」から「修理して循環させる時代」への転換を示しています。
この流れは必ず世界へ広がり、日本にも波及します。
サステナブルな未来は、法制度だけでなく、私たち一人ひとりの行動によって築かれるものです。
「何を買うか」「どう使うか」という日常の選択が、循環型社会への第一歩となるでしょう。