ファッション業界において、サーキュラーエコノミー（循環型経済）は、地球環境と資源を保護するために欠かせない視点です。サーキュラーファッションは、衣服の製造から販売、使用、リサイクル、廃棄に至るまで、あらゆる段階で循環を意識し、資源の有効活用を図る取り組みを指します。この背景には、急速なファストファッションの普及があり、消費者が短期間で衣類を買い替えることで、大量の廃棄が生まれてしまう現実が存在します。特に、日本を含む多くの先進国ではファストファッションの急速な拡大により、衣類の購入頻度が高まり、自然環境に与える影響が深刻化しています。
サーキュラーエコノミーとは？
サーキュラーエコノミーとは、従来のリニア型経済と違い、資源を無駄にせずに循環させ、長期間にわたり使用可能な形で活用する経済システムです。このモデルでは、製品のライフサイクルを延ばし、再利用やリサイクルによって廃棄物の発生を抑制します。
特にファッション業界では、環境負荷を減らすために素材のリサイクルやリペアが重視され、限られた資源を何度も使うことが重要視されています。この新しい循環型の取り組みにより、衣類の廃棄量を減らし、地球環境への悪影響を抑えることが期待されています。
ファッションにおけるサーキュラーエコノミーの取り組み
- 古着の回収とリサイクル
衣服が不要になった際に、捨てるのではなく、回収してリサイクルする取り組みが増えています。多くのアパレルブランドが、顧客から古着を回収し、リサイクル素材に再生するプロジェクトを進めています。例えば、H&Mやユニクロでは店頭で古着を回収し、再生繊維として新しい製品に使われる仕組みが広がっています。 - リサイクル素材の使用
近年、ペットボトルや廃棄漁網など、再生可能なリサイクル素材が衣服に使われるようになりました。リサイクルポリエステルやオーガニックコットンなどの素材を使用することで、環境負荷を大幅に減らしつつ、新しい価値を提供することが可能です。これにより、衣服の製造過程でも持続可能な選択が増え、消費者がエコフレンドリーなアイテムを選びやすくなっています。 - アップサイクルプロジェクト アップサイクルとは、元の製品よりも価値の高い新しい製品に生まれ変わらせる取り組みを指します。例えば、ヴィンテージや古着を新たにリメイクし、デザイン性を加えたファッションアイテムとして再販売するプロジェクトが人気を集めています。日本国内でも、不要になったジーンズをリメイクしてバッグに作り替えたり、伝統工芸とコラボしたアップサイクル品が登場するなど、ファッションに新たな価値を提供する動きが進んでいます。
ファッション業界がもたらす環境問題の実態
ファッション業界が抱える環境負荷は極めて大きく、次のような問題があります。
- 温室効果ガスの大量排出
国際的な調査によると、ファッション産業全体で排出される温室効果ガスの量は、全世界の約10％を占めると言われており、これは航空業界や海運業を上回る数字です。合成繊維の生産では石油を多く使用し、製品が劣化するまで数百年かかるため、埋立地に捨てられた後も地球環境に負荷をかけ続けます。 - 水資源の消費と汚染
綿花の栽培には大量の水が必要で、Tシャツ1枚の生産には約2,700リットルの水が必要とされます。さらに、染色工程では多量の有害化学物質が使用されることも多く、適切に処理されない場合は、廃水が河川に流れ込み、地域住民の健康や生態系に深刻な影響を及ぼすことがあります。 - 廃棄物の増加
世界では、年間約9,200万トンの衣類が廃棄されており、その多くがリサイクルやリユースされることなく埋め立てられています。日本でも、ファッションの流行や季節ごとのトレンドに合わせて大量の衣類が販売され、使用されなくなった衣類がゴミとして廃棄される現状があります。この問題を解決するため、サーキュラーファッションが注目されています。
サーキュラーファッションがもたらすメリット
サーキュラーファッションがもたらすメリットとデメリット
サーキュラーファッションは、衣類の廃棄削減やリサイクルを推進する新たな経済モデルで、環境問題に対して大きな効果を発揮する一方、導入にはいくつかの課題も伴います。以下では、そのメリットとデメリットを具体的に見ていきます。
メリット
1. 資源の有効活用と廃棄物削減
サーキュラーファッションは、使い終わった衣類を再利用する仕組みを通して、限られた資源を効率的に活用します。これにより新たな天然資源の消費を抑えるとともに、衣類廃棄量を減らし、埋立地や焼却による環境負荷を軽減します。
2. 環境への負荷低減
リサイクル素材やオーガニックコットンの使用は、衣類生産に伴う温室効果ガス排出や水資源の消費を抑えます。サーキュラーファッションは、大量生産を前提としないため、従来のファッション業界よりも環境に優しい製品サイクルを提供します。
3. ブランドイメージの向上
サステナビリティに配慮した取り組みを行うブランドは、エコ意識の高い消費者にとって好まれる存在になります。環境に配慮することで、ブランドの信頼性やイメージが向上し、消費者の支持を得やすくなります。
4. 消費者のエコ意識向上
サーキュラーファッションに触れることで、消費者は衣類のリサイクルや持続可能な選択に関する意識が高まります。特にリペアやリサイクルサービスを利用する経験を通して、「長く使う」「使い捨てない」といった新しい価値観が消費者の間に広がりつつあります。
デメリット
1. 高いコストと価格
リサイクル素材の使用や、製品の寿命を延ばすためのメンテナンス提供などにはコストがかかります。そのため、サーキュラーファッションは一般的なファストファッションよりも価格が高くなりがちで、消費者にとっては負担が増えることもあります。
2. リサイクルの技術的な課題
繊維を再利用するには、複合素材を分離したり、繊維を劣化させずに再生したりする技術が必要ですが、これらの技術はまだ発展途上です。特に、ポリエステルとコットンの混紡素材は分離が難しく、100%リサイクルが難しい製品も多いのが現状です。
3. 消費者の理解と行動の変革
サーキュラーファッションは、消費者が新しい考え方に慣れる必要があり、従来の「使い捨て」から「修理して長く使う」という行動変容を求められます。しかし、消費者にとってはまだハードルが高く、意識改革が浸透するには時間がかかる場合もあります。
4. 製品デザインの制約
リサイクルやリペアを前提とした衣類設計には、使用する素材やデザインに制約が生まれやすくなります。そのため、特にファッション性を重視する消費者には、デザインの選択肢が限られてしまうことがデメリットといえます。
サーキュラーファッションは多くのメリットをもたらす一方で、価格やリサイクルの技術的な課題など、まだ克服すべきデメリットも存在します。消費者としてもメリットとデメリットを理解した上で、少しずつ持続可能な選択を取り入れていくことが大切です。
サーキュラーファッション実現を阻害する要因
サーキュラーファッションを進める上で、いくつかの課題が存在します。
- 消費者の理解不足：サーキュラーファッションへの理解が進んでいないため、選ばれる商品は限られています。
- コストの高さ：再生素材やアップサイクルにはコストがかかり、価格が高くなる傾向があります。
- リサイクル技術の課題：繊維の分離や再利用が技術的に難しく、リサイクル効率が低いことが課題です。
サーキュラーエコノミーに基づくファッション業界の5つのビジネスモデル
1. 持続可能なサプライチェーンの構築
サーキュラーファッションにおける重要な取り組みとして、製品のライフサイクル全体を通じて持続可能なサプライチェーンの構築が進んでいます。素材の選定段階でオーガニックコットンやリサイクル素材などを採用することで、製造過程での環境負荷を軽減し、最終的には製品が廃棄されても環境に配慮した素材で構成されることが目指されています。
2. 回収とリサイクル
多くのブランドが古着の回収プログラムを展開し、消費者が不要になった衣類を店舗やオンラインで回収し、再生可能な素材として再利用しています。H&Mの「Garment Collecting Program」や、日本のユニクロによる「RE.UNIQLO」プログラムは、消費者にリサイクルの意識を促し、集めた古着を新しい衣類に再生することで、循環型のライフサイクルを築いています。
3. 製品寿命の延長
ファッション業界におけるリペアサービスの提供も、サーキュラーファッションの重要な側面です。たとえばPatagoniaの「Worn Wear」プログラムでは、消費者が購入した製品を修理することで長く使えるようにサポート。修理して使い続けることは、資源の浪費を防ぐだけでなく、消費者が購入した製品に対して愛着を持つことにもつながります。
4. シェアリングプラットフォーム
レンタルやシェアリングのファッションプラットフォームもサーキュラーエコノミーの重要な要素です。例えば、ファッションレンタルサービス「airCloset」や「メチャカリ」などは、消費者が必要な時だけ衣類をレンタルすることで、頻繁に新しい衣類を購入する必要をなくします。また、これにより衣類の使用頻度が高まり、ライフサイクルを延ばすことができます。
5. 製品のサービス化
製品の販売からサービス提供へとシフトする動きも広がりつつあります。具体的には、「使用期間に応じた料金で商品を提供し、使用後は回収してリサイクルする」仕組みを取り入れる企業も増えています。このモデルは、製品の寿命を管理し、使い終わった製品を新たな形で再利用するため、廃棄の量を減らすことができます。
サーキュラーファッションに関連する技術革新
近年の技術革新により、サーキュラーエコノミーの実現がさらに進みつつあります。例えば、繊維を分解して再生する新技術や、バイオベース素材の開発が進展しています。例えば、リサイクルポリエステルのように再生可能な素材は、廃棄物から新しい衣服を生み出す技術です。また、繊維を一度溶解してリサイクルする「ケミカルリサイクル」も注目されています。この技術は混紡素材も分解してリサイクルできるため、従来の物理的リサイクルでは難しかった衣類にも再生可能性を持たせることが可能です。
さらに、AI（人工知能）やブロックチェーン技術もファッション業界でのサーキュラーファッションをサポートしています。ブロックチェーンは商品の履歴や素材のトレーサビリティを保証するのに役立ち、消費者はその製品がどこでどのように生産され、リサイクル可能かを確認できます。
サーキュラーファッションを促進するための消費者行動
私たち消費者は、日常の中でサーキュラーファッションを選ぶことが可能です。以下は、消費者としての行動を促す具体的な方法です。
- エコラベルや認証を確認する
環境に配慮した商品には、エコラベルや認証マークが付いています。例えば、「GOTS（Global Organic Textile Standard）」認証は、オーガニック素材を使用し、製造工程も持続可能な方法で行われている製品に付与されます。こうしたマークを参考にすることで、サステナブルな選択をする手助けになります。 - ファッションのメンテナンス
衣類を正しくケアすることで、製品寿命を延ばすことができます。例えば、洗濯時に低温で洗う、手洗いをするなど、衣類の素材に応じた洗濯方法や保管方法を採用することで、繊維の劣化を防ぎ、長く使うことができます。 - リサイクルショップでの購入や寄付
不要になった衣類は、捨てずにリサイクルショップに寄付するか、リセールプラットフォームで販売するのも有効です。中古の衣類を購入することで、新たな衣類を生産するための資源消費を抑えることができます。 - アップサイクルプロジェクトへの参加
不要な衣類をリメイクするDIYプロジェクトや、デザインのリメイクを楽しむのも良い方法です。小さな工夫で新しいスタイルを楽しむことができ、資源を有効活用することができます。
サーキュラーファッションの取り組み例
ブランド別の取り組み事例
1. Stella McCartney
このブランドは動物性素材を一切使用せず、リサイクルポリエステルやオーガニックコットンを使った持続可能なアイテムを多く展開しています。Stella McCartneyは「サステナブルでありながらラグジュアリー」を実現しており、エコ意識の高い消費者に強く支持されています。
2. Levi’s
デニムブランドのLevi’sは、リペアやリサイクルサービスを提供し、製品寿命を延ばす取り組みを進めています。同ブランドは「Water<Less」という水の使用量を最大96％削減した製造工程を取り入れており、サステナブルなデニムの代表例となっています。
3. アディダスのループプロジェクト
アディダスは100%リサイクル可能なスニーカー「Futurecraft Loop」を発表しました。このスニーカーは、使用後もまた新しいスニーカーに再生可能で、製造から廃棄までを閉じたサイクルにすることで、製品を何度も再生可能にすることを目指しています。
サーキュラーファッションに向けた未来の展望
サーキュラーエコノミーとファッションの融合は、ファッション業界と消費者の意識を変革しつつあります。未来には、すべての製品がサステナブルな形で設計される社会が理想とされており、循環型のライフスタイルが主流になることが期待されます。企業と消費者の双方が協力し、循環の仕組みを維持していくことが重要です。将来的には、バイオマテリアルなど、環境に優しい素材の普及やリサイクルシステムの整備が進み、衣類の「使い捨て」という概念がなくなるかもしれません。
まとめ
サーキュラーファッションは、私たちが持続可能な未来に向けた行動を実践するための選択肢の一つです。消費者一人ひとりがエコ意識を持ち、サステナブルな製品を選ぶことで、衣類のライフサイクルが循環型へと変わり、ファッション業界の環境負荷を軽減することが可能になります。
