自然はまだ“豊か”だと思っていませんか?
日本は「自然豊かな国」として知られています。四季があり、山や川、森が多く、都市部にいても「緑」を感じることができる——そう信じている方は多いのではないでしょうか。しかし、実際にはその“緑”の背後で、森林の質や生物多様性の喪失が静かに進んでいます。
SDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」は、こうした課題に世界規模で取り組むための目標です。この記事では、日本における現状をデータとともに掘り下げ、私たちにできる行動までを分かりやすく解説します。
日本の森林率は高い。でも、だからこそ見落とされている問題も

環境省の調査によれば、日本の国土の約66%が森林に覆われています(2022年時点)。これは世界でも高水準であり、一見すると問題なさそうに思えます。しかし、その多くが戦後に植えられたスギ・ヒノキ中心の人工林です。
これらの森林は、植林から数十年を経て間伐や更新の時期を迎えているにもかかわらず、管理が追いついていない地域が多く存在します。背景には、林業従事者の減少や経済的な採算の悪さがあり、2022年の時点で林業従事者は約4万人以下と、年々減少傾向が続いています。
間伐されないことで森が暗くなり、地表に光が届かず、下草が育たなくなります。その結果、土砂災害リスクの増加や、動植物の生息環境の悪化が進行しています。
日本は“生物多様性ホットスポット”——にもかかわらず、絶滅危惧種が急増中

日本は、国土の面積に対して多様な生物が生息しており、いわゆる「生物多様性ホットスポット」の一つに数えられています。確認されている動植物の種は約9万種にのぼり、そのうち約3,700種が絶滅の危機にあるとして環境省のレッドリスト(2020年版)に掲載されています。
ここで見逃せないのが、「外来種」による生態系への影響です。
- アライグマ:ペットとして輸入されたものが野生化し、農作物被害と同時に在来動物の巣や卵を襲う
- セイタカアワダチソウ:河川敷や空き地に急激に広がり、在来植物を駆逐
- ジャンボタニシ(スクミリンゴガイ):水田を荒らし、農業被害を引き起こすだけでなく、地域の水生生物にも影響
こうした外来種は、単に見た目の違いではなく、生態系の構造そのものを壊す可能性があるのです。
環境省では「特定外来生物法」に基づき対策を進めており、輸入の規制や駆除活動が行われていますが、市町村ごとで対応にばらつきがあるのが現状です。人材や予算の不足から、継続的な活動が困難な地域も少なくありません。
土地利用の変化が生態系の“つながり”を断っている

森林破壊や生物多様性の危機というと、「アマゾンの話」「外国の話」と思いがちですが、日本国内でも起きています。たとえば、郊外の住宅開発やメガソーラー建設によって、自然環境が“点”としては残っていても、生態系としての“つながり”が失われているのです。
動物にとっては、森林が孤立してしまうことで移動が難しくなり、遺伝的多様性の低下や個体数の減少につながります。この「生態系の断片化」は、都市部でも深刻な課題として認識され始めています。
また、農業の衰退による「放棄地」も問題です。耕作放棄地が増えたことで里山の管理が行き届かず、イノシシやシカなどの野生動物が人里に出没する原因にもなっています。これは同時に、農作物被害や人との衝突リスクも高めています。
行政・自治体の取り組み:進んでいる地域と、取り残されている地域
国レベルでは「生物多様性国家戦略2023」が策定され、2030年までに自然回復を進める目標が掲げられています。また、森林環境譲与税制度により、市町村への森林整備予算が強化されつつあります。
一方、自治体によって対応に差があるのが現実です。
- 長野県:「森づくり県民税」により、市民参加型の間伐活動や森林教育が進行中
- 鹿児島県:外来生物の捕獲・駆除に住民が参加し、地域ぐるみでの生態系保全が進む
しかし、全体的には専門人材の不足、若者の参加の少なさ、行政の縦割り構造など、乗り越えるべき課題も多く残されています。
私たちにできること:未来のために、“陸”と向き合おう
SDGsというと「国や企業がやること」と思われがちですが、陸の豊かさを守るために私たち一人ひとりにもできることがあります。
- 地元の自然観察会や森林保全活動に参加する
- フェアウッド(持続可能な木材)の製品を選ぶ
- 地域の環境問題に関心を持ち、声を上げる
自然は「なくなってから守ろう」と思っても、もう遅いのです。今あるものを、未来に引き継ぐために。まずは知ること、そしてできることから始めてみましょう。
