世界中で深刻な問題となっている「食品ロス」。単なる食品の無駄にとどまらず、環境負荷の軽減や持続可能な社会の構築にもつながるため、食品ロス削減は重要な課題として位置づけられています。日本でも年間約523万トンもの食品が廃棄されている中、どうすればこの問題を乗り越えることができるのでしょうか?本記事では、流通や消費者行動の変革の難しさに焦点を当て、課題解決に役立つ最新技術や政策の可能性を探ります。
食品ロス削減の背景
まずは、食品ロスの現状とその背景について詳しく見てみましょう。食品ロスは、生産から流通、消費者に届くまでのさまざまな段階で発生しています。農林水産省のデータによると、日本での年間食品廃棄量は約523万トン、そのうち約244万トンが家庭から出ています。家庭での食品廃棄が大きな問題となっていることを示しています。
また、食品ロスの認知度も徐々に高まりつつあり、ある調査によれば、食品ロスについて「知っている」「聞いたことがある」と答えた人は全体の約80%に上りますが、実際にアクションを起こしている人は約30%程度とされています。このギャップが示すように、課題を知っているものの、行動に移す難しさも感じられます。
流通における課題と現状
食品ロスの大きな原因の一つは流通過程にあります。食品が生産されてから消費者の手に渡るまでの間、適切に管理されなければ廃棄されるリスクが高まります。特に賞味期限の管理が難しく、物流のタイミングや小売店での販売期限の設定が誤ると、多くの食品が消費される前に廃棄されてしまう状況に陥ります。
例えば、特売イベントや季節限定商品のような大量販売イベントでは、売れ残りのリスクが高まるため、余剰在庫が発生しやすくなります。また、消費者が新鮮な商品を選ぶ傾向が強いため、販売期間の短い食品が多く廃棄されることも課題です。特に小売店では、売り場の見栄えや鮮度を保つために多くの商品を並べざるを得ない状況があり、廃棄リスクが増加しています。
- 先進的な技術による解決策こうした課題を解決するために、AI技術を活用した需要予測や賞味期限の自動管理が注目されています。AIを用いて需要予測を行うことで、需要に応じた適切な在庫を維持でき、売れ残りを減らすことが期待されています。また、ブロックチェーン技術を活用し、食品のトレーサビリティを確保することで、どの段階でどのくらいのロスが発生しているかを詳細に追跡することが可能になります。
消費者行動の変革が難しい理由
家庭内での食品ロスが課題とされる一方で、消費者の意識改革も必要とされています。日本では、家庭から発生する食品廃棄の主な要因として「賞味期限の過剰な気にかけ」「買いすぎ」などが挙げられています。
消費者庁が令和4年に、全国の満 18 歳以上の男女 5,000 人を対象に実施した「食品ロスの認知度と取組状況等に関する調査」を交え、消費者行動の変革が難しい理由を深堀りしていきます。
(出典:消費者庁 食品ロスの認知度と取組状況等に関する調査)
食品ロス問題の認知度
食品ロス問題を知っているか聞いたところ、「知っている」と回答した人が 80.9%であった。一方で、「知らない」と回答した人が 19%であった。
年代別で見ると、「知っている」と回答した人の割合が最も高かった年代は 70 歳代以上で 90.7%。「知らない」と回答した人の割合が最も高かった年代は 20 歳代で 33.9%となっている。
食品ロス問題を知っていて食品ロス削減に取り組む人の割合
食品ロス問題を知っていて食品ロス削減に取り組む人の割合を調査したところ、食品ロス 問題を「知っている」と回答し、食品ロスを減らすための「取組を行っている」と回答した 人は 78.3%と前の年と比較すると、1.7%増加しており、毎年増加の傾向が見られる。
フードバンク活動及びフードドライブ活動の認知度
フードバンク活動及びフードドライブ活動について知っているか聞いたところ、「両活動とも 知らなかった」と回答した人が 51.4%と最も多く、両活動ともに知っていると回答した人は13.4%とかなり低い結果となった。
- フードバンクとは? 食品企業の製造工程で発生する規格外品などを引き取り、福祉施設等へ無料で提供する「フードバンク」と呼ばれる団体・活動。
- フードドライブとは? 各家庭で使い切れない未使用食品を持ち寄り、それらをまとめてフードバンク団体や 地域の福祉施設・団体などに寄贈する活動。
持続可能な消費行動を促すための政策と教育
これまでのデータからも分かる通り、行動の変革には、意識改革が不可欠です。自治体や企業が主導し、食品ロス削減キャンペーンを行ったり、リサイクル食品の利用を推進することで、個人の行動を促す試みが増えています。 また、食品の保存方法や賞味期限に対する知識を広めることで、消費者が上手に食品を管理できるような教育も重要です。たとえば、家庭での食品保存術や食材の使い切りレシピの普及は、日常的な食品ロスを防ぐ具体的な手段として効果的です。
課題解決に向けた技術と政策の可能性
ここでは、食品ロス削減に向けた技術と政策の新しい取り組みについて見てみましょう。
テクノロジーによる支援
シェアリングエコノミーを利用した「フードシェアリングアプリ」や、消費期限が近い食品を消費者に提供する「食品救済プラットフォーム」が注目されています。たとえば、「もったいないキッチン」のような取り組みは、地域での食品ロスを減らし、余った食品を必要としている人々に提供する方法として支持を集めています。さらに、AIを組み込んだ冷蔵庫やキッチン家電も登場し、食品の保存状態や消費期限を管理してくれることで、家庭での食品ロス削減を支援しています。
政策支援と企業の取り組み
政府や企業が導入している政策も、食品ロス削減に貢献しています。たとえば、フランスのスーパー廃棄物防止法は、売れ残り食品の廃棄を禁止し、食料を寄付することを義務付けています。日本でも、同様の取り組みとして「食品ロス削減推進法」が施行され、自治体や企業が地域レベルでの食品ロス削減を目指しています。さらに、食品の循環利用を促進するために、自治体が「フードバンク」や「リサイクル施設」を運営し、家庭から出る食品廃棄物のリサイクルを進めています。
私たちにできること
食品ロス課題の解決には、消費者行動の見直しとテクノロジーの活用が鍵となります。消費者一人ひとりが必要な量だけを購入し、適切に保存することが、日常生活の中での食品ロス削減に貢献します。また、企業や自治体と連携し、食品の循環利用や余剰食品の寄付活動にも積極的に参加することが、持続可能な未来への一歩となります。
まとめ
食品ロスは私たち一人ひとりの努力によって減らせる問題です。日々の買い物や食事の際に「必要な分だけ購入し、残さず食べる」ことを意識することが、持続可能な未来に貢献する最初のステップです。地域のフードバンク活動や食品救済プラットフォームに参加し、周囲と協力して食品ロス削減に貢献する行動も求められています。