「食品ロス」は私たちの日常で意識しやすいエコ活動のひとつです。
日本では約523万トンの食品が無駄にされており、これは多くの環境負荷を引き起こしています。一方、世界にはさまざまな方法で食品ロス削減に取り組む国々があります。 本記事では、デンマーク、フランス、アメリカ、オーストラリア、日本の5カ国の事例を紹介し、それぞれの工夫から学べるポイントを深堀りします。
「食品ロスが発生する主な原因」
まずは食品ロスが発生する家庭や企業、流通過程での代表的な原因を詳しく解説します。
1. 賞味期限・消費期限の誤解
日本では「賞味期限」と「消費期限」が明確に分かれていますが、多くの消費者がこれらを混同し、食べられる食品を廃棄するケースが多いです。 賞味期限は「品質が保たれる期限」を示し、多少の期間が過ぎても安全に食べられるものがほとんどです。しかし、誤解により期限切れと判断され、まだ消費可能な食品が捨てられています。
2. 過剰生産と在庫管理の課題
企業では、消費者の需要を予測して生産しますが、需要の変動や市場の変化により過剰生産が発生することがあります。 また、販売業者では多くの在庫を確保することで顧客満足度を高めようとしますが、その結果、売れ残りが生じ、廃棄される食品が増加します。
3. 規格外品の廃棄
食品業界では、消費者に選ばれるために美しい見た目が求められます。 そのため、サイズや形が規格に合わない野菜や果物が出荷前に廃棄されてしまいます。これらの規格外品は食べるには全く問題がないにもかかわらず、消費者に届く前に捨てられるケースが多く、食品ロスの大きな原因となっています。
4. 販促活動による過剰購入
「まとめ買いセール」や「1つ買うともう1つ無料」といった販促活動も、食品ロスを招く原因のひとつです。 消費者はお得感から必要以上に食品を購入するものの、家庭で消費しきれずに廃棄されることが多いです。これにより、家庭内での食品ロスが増加しています。
5. 消費者の行動パターンと食品ロス
家庭での食品ロスは消費者の生活習慣にも影響されています。 例えば、食材を購入したものの、料理する時間がない、外食が増えたなどで食材を使い切れないことが多くあります。また、見た目が気になる部分を過度に切り落とすなど、調理段階でも無駄が発生しやすいです。
上記のように、食品ロスが発生する原因は多岐にわたります。 しかし、消費者の理解と行動の変化、企業の取り組みによってこれらの原因を減らすことは可能です。次章では、これらの課題に取り組む具体的な方法について世界の事例をもとに紹介します。
各国の食品ロス削減の現状と対策
1. デンマーク:REMA 1000による過剰在庫の削減とフードシェアリングの推進
対策の特徴
デンマークでは、スーパー「REMA 1000」が食品ロス削減に大きな役割を果たしています。REMA 1000は、廃棄を減らすために売れ残りの発生しやすい特定商品の取り扱いを控えるほか、過剰な販促活動も行わないようにしています。また、デンマークでは「Too Good To Go」などのフードシェアリングアプリも広く利用されており、食品ロスの削減に貢献しています。
- REMA 1000の取り組み
- 売れ残りを避けるため、価格を適切に設定し、必要以上の特価セールを行わない方針を採用。
- 一部の生鮮食品については廃棄が出ないように、特定の曜日や時間に価格を調整して販売。
- フードシェアリングアプリとの連携
- デンマーク全体で普及している「Too Good To Go」などのアプリを利用し、消費期限が近い食品を一般消費者に安価で提供し、廃棄を回避。
効果
REMA 1000の取り組みにより、食品廃棄の大幅な削減が実現されています。さらに、フードシェアリングアプリとの連携によって、地域全体で食品ロス削減の意識が高まりました。
学べるポイント
日本でも、店舗とフードシェアリングアプリを積極的に連携させることや、過剰な割引キャンペーンを抑制することで、持続可能な食品ロス対策が期待できます。
2. フランス:食品廃棄防止法による強制的な廃棄削減
現状
フランス環境エネルギー管理庁(ADEME)の2016年5月の報告書によるとフランスでは年間1,000万トンの食品が廃棄されています。食品廃棄は社会問題となっており、法整備が進んでいます。
対策の特徴
フランスは2016年に「食品廃棄防止法」を施行し、大規模スーパーマーケットに対して食品廃棄を禁止しています。
法律の内容
売れ残った食品を廃棄せず、慈善団体に寄付することを義務化。
効果
年間数百万トンの食品が廃棄されることなく、フードバンクや困窮者への支援に回されています。
学べるポイント
日本でも同様の法整備が検討されていますが、フランスのように企業や個人が廃棄ゼロに向けて取り組む意識の強化が必要です。
3. アメリカ:フードリカバリー・ネットワークによる余剰食品の活用と地域支援
現状
アメリカでは年間6,600万トン以上の食品が廃棄され、環境負荷が問題視されています。
対策の特徴
アメリカでは、食品ロスを削減し地域の食糧不足を支援するため、全国規模で展開される「フードリカバリー・ネットワーク」が中心的な役割を果たしています。このネットワークは、企業や農家、小売業者から余剰食品を集め、必要としている地域の人々や施設に分配する仕組みを構築しています。
- 食品回収と分配の仕組み
フードリカバリー・ネットワークは、余剰食品を各地のフードバンクや慈善団体と連携して効率的に配布しています。これにより、食材が廃棄されることなく、支援が必要な家庭や施設に届けられます。 - 企業や地域の参加促進
多くの企業がフードリカバリー・ネットワークに参加することで、食品ロス削減とともに地域貢献の一環としての役割も果たしています。また、地域のイベントや学校を通じた教育活動を行い、食品ロス削減の意識を向上させる活動も推進しています。
効果
このネットワークによって、毎年数百万食分の食品が廃棄されることなく有効活用され、貧困層や食料不足の家庭に食事が届けられています。食品ロス削減による環境負荷の軽減に加え、地域支援にも繋がる活動として、多くの人々に支持されています。
学べるポイント
日本でも、アメリカのフードリカバリー・ネットワークのように、余剰食品を回収・分配する仕組みを導入することで、食品ロス削減と地域支援を両立させることが可能です。企業や団体が一体となって取り組むことで、持続可能な社会の実現が期待されます。
4. オーストラリア:Foodbank Australiaによる余剰食品の再利用と貧困支援
現状
オーストラリアでは年間約760万トンの食品が廃棄されていると言われており、温室効果ガスへの影響が指摘されています。
対策の特徴
オーストラリアでは、アメリカを参考に1990年代からフードバンクが設立され。食品ロスを削減しながら困窮者を支援するため、⾷糧援助団体「Foodbank Australia」が重要な役割を担っています。Foodbank Australiaは、企業や農家からの余剰食品を集め、全国各地の必要な人々に配布するシステムを構築しています。
- 食品の寄付と分配システム
大手食品メーカーや小売店、農家などから余剰食品を受け取り、国内の貧困層に届ける仕組みが整っています。これにより、食材が廃棄されず、適切な支援に繋がっています。 - 地域社会への支援と啓発
Foodbank Australiaは、フードバンクの活動を通じて地域社会における食品ロス削減の意識を高める活動も行っています。また、学校などの教育機関とも協力し、若い世代に対しても食材の大切さを伝える教育を推進しています。
効果
このシステムにより、年に7,700万⾷分の食品が廃棄されずに有効活用され、特に貧困層や食糧不足に悩む家庭に食事が提供されています。また、企業側でも廃棄量が減ることで、環境負荷の低減と企業イメージの向上に寄与しています。
学べるポイント
日本でも、フードバンク活動を通じて食品ロス削減と貧困支援を両立する取り組みが広まれば、より多くの人々に役立つ社会資源として機能することが期待されます。企業や地域社会が協力して余剰食品を活用することで、持続可能なシステムの実現が可能です。
5. 日本:自治体と企業の「もったいない」精神を基にしたキャンペーン
現状
日本では年間約523万トンの食品ロスが発生しており、そのうちの約半分が家庭からの廃棄によるものです。 この問題を解決するため、日本では「もったいない精神」に基づいた食品ロス削減の取り組みが広がっています。「もったいない」という言葉には「まだ使えるものを無駄にしない」という意味が込められており、環境意識の高まりとともに、この考え方が再評価されています。
対策の特徴
日本各地で、もったいない精神を活かした食品ロス削減キャンペーンが展開されています。自治体や企業、教育機関が連携し、無駄なく食材を活用するための活動や啓発が行われています。
- 「もったいない」キャンペーン
自治体や企業が協力して、「もったいない」をテーマにしたイベントやキャンペーンを実施。例えば、食材を無駄なく使い切るための料理教室や、消費期限と賞味期限の違いについての啓発活動などが行われています。 - 家庭での食品ロス削減啓発
各家庭で実践できる食品ロス削減方法を紹介し、もったいない精神を広めるための取り組みも進められています。家庭で余った食材を再利用するレシピの紹介や、地域での食材シェアリング活動も一環として広がっています。
効果
こうしたもったいない精神に基づく取り組みにより、日本国内では食品ロスへの関心が高まり、実際に廃棄量の削減に貢献しています。特に、若い世代にもこの精神が浸透しつつあり、エコ活動の一環として取り組まれています。
学べるポイント
もったいない精神は、日本の伝統的な価値観であると同時に、現代における持続可能な社会の実現に向けたヒントでもあります。海外にも「もったいない」の概念を広めることで、無駄を抑える意識を世界的に高めることが期待されます。
食品ロス削減のために私たちができること
上記の国々の成功事例から学び、私たちの日常に取り入れられるアクションを紹介します。
- 購入計画の見直し 必要な分だけ購入し、無駄を出さない買い物習慣を身につける。
- 余った食材のアレンジ 使い切れなかった食材をアレンジレシピで消費。
- フードシェアリングサービスの活用 地域やSNSでのシェア活動に参加し、食品の無駄を削減。
- コンポストの活用 家庭での生ゴミをコンポスト化し、資源として再利用。
まとめ
食品ロス削減は、国の政策だけでなく、私たち一人ひとりができる身近なエコ活動です。デンマークのデジタル技術、フランスの法整備、アメリカの教育、日本のもったいない精神など、5カ国の事例から得られるヒントを活かして、今すぐ実践できる取り組みを始めてみましょう。小さなステップが、持続可能な未来につながります。